小説を書いている人間の端くれとして、ときどき、優れた映画に嫉妬する。
「ああ、これ、俺が小説で描きたかったなあ……」と嘆いてしまう作品に出会うと、ほんとうに悔しくて、でも「この映画のほうが俺の小説よりも絶対にいいだろうなあ」と認めざるを得ないから、よけいに悔しくて、情けなくて、でも素晴らしい映画に出会った喜びのほうがそれに勝って……。
 熊坂出さんの『パーク アンド ラブホテル』にも、そんな嫉妬を抱いた。
 いいなあ、すげえなあ、俺もこういうの描きたかったんだよなあ、と僕はただひたすらうなりどおしだったのだ。
 そんな熊坂さんが、小説を描いた。しかも、それを俺のもとに送ってきた。
 ちょっと待ってくれよ。正直に言うと、ムカッと来た。だって、俺は、とりあえず小説でメシを食ってるんだぞ。俺にケンカ売ってんのか……。
 で、読んだ。まだ甘いところはいくつもある。「うまい」かどうかで言えば、「うまくない」だろうな。でも、「いい」かどうかで言えば——いいよ、すごく!
 荒いところはある。甘いところもある。でも、「生」と「死」を描いて、それが「聖」と「詩」に昇華されていくのだ。「死体」という身も蓋もないものが、熊坂出の小説の世界では「慕い」にまで変わりうるのだ。
 僕は熊坂さんの映画の大ファンである。『パーク アンド ラブホテル』もそうだし、出来たてホヤホヤを観せてもらった『リルウの冒険』もそう。映画監督としての熊坂さんは、いつも「死」と「詩」を行き来しているし、それは小説家・熊坂出も同じなのだ。
 まあ、読んでみてください。
 厳しい感想も、熊坂さんは大歓迎だと思う。
 だって、うんと年上の俺に「シゲマツさん、推薦してくださいよ」なんて、図々しいことを言う奴なんだぜ。表現者として最も必要な図太さは、十二分に持っている男だ。
 そんなナマイキな奴の小説なんだから、読み手も気合を入れて、「つまらなかったら、ぶん殴るぞ」という気持ちで、読んでください。殴っていいですよ。マジに。でも、たぶん、絶対に、好きになると思うから。

2014年4月吉日 重松清

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